●脱窒素細菌とは? 土壌中・水中などのNO3-(あるいはNO2-)から酸素を奪い、N2として空気中に放出する細菌を脱窒素細菌といいます。 N2+3H2→NH3の反応を行う窒素固定細菌のほぼ逆の反応を行っているわけです。「脱窒菌」とも略され、反応は「脱窒素作用」あるいは「脱窒」といいます。 ●環境対策分野で注目される「脱窒素細菌」 海や河川の汚染の多くは私たち人間の生活排水に由来し、生活排水に混入してくる食事屑などの中の タンパク質が分解されるとNH4+になり、水中の硝化細菌でNO3-になります。 このNH4+やNO3-をどう除去するかについて川・海・干潟などの自然の浄化作用は以下のように考えられてきました。 NO3ー ↓ 藻類が窒素同化で吸収 ↓ 貝・魚・動物プランクトンによる捕食 ↓ 大型魚や水鳥による捕食 とくに干潟(満潮干潮で日に2度乾燥・水中化を繰り返す遠浅の海)は川の下流の河口域に位置し、川由来の有機物が砂泥に付着し、 それをアサリ・ゴカイなどが捕食し、それを魚や鳥が食べる「食物連鎖」で過剰なNO3-を除去すると考えられてきました。 ところがその干潟でNO3-を除去する役割の4割は脱窒素細菌が行っていることがわかり脱窒素細菌に注目が集まったのです。 ●硝化脱窒方式の下水処理・浄化槽 皆さんが家で流した排水はどこでどのように処理されているか知っていますか? 多くは下水処理場・浄化槽で処理され、「活性汚泥法」と呼ばれ、ツリガネムシなどの原生動物に有機物の汚れを食べさせる方法が主流です。 しかし「活性汚泥法」だけでは十分にNO3-が除去できないので、干潟の浄化原理を取り込んだ技術である、「硝化脱窒方式」という方法が最近行われています。(福島大で出題) まず生活排水の中にまだ残っているNH4+を硝化細菌でNO3-にさせます。 その上で脱窒菌を作用させ、空気中にN2の形で放出させるのです。「硝化作用」は02が必要で「好気槽」という02を送り込む槽、「脱窒作用」は嫌気状態で進むので「嫌気槽」で行い両者を何度か循環させます。 ●発展的設問(08東大前期/改) 「土壌中には脱窒素細菌もいる。この細菌は、有機物を基質として、酸素呼吸と嫌気呼吸の両方を行うことができる。 この嫌気呼吸では、硝酸イオンが電子受容体となり、気体の窒素(N2)が生成される。 これを硝酸呼吸とよぶ。窒素ガスは土壌から大気へ放出されるので、硝酸呼吸は脱窒作用とも呼ばれる。 (中略) 自然界には大気中の窒素をアンモニアに変換する( )細菌がいる。 したがって自然界では( )細菌と硝化細菌、 脱窒素細菌の活動による、窒素→アンモニア→硝酸→窒素という循環系が機能している。 問1 空欄を補充せよ。 問2 脱窒素細菌は、酸素と硝酸イオンの両方があると、酸素呼吸と硝酸呼吸のどちらを行うのだろうか。 それを調べるため、十分量の有機物を含み、硝酸イオンの有無のみ違いのある液体培地が入った2つの容器に、 脱窒素細菌を少量(乾燥重量で1mg)ずつ接種して静置培養し、増殖の様子を比較した。その結果を表に示す。 脱窒素細菌の乾燥重量 NO3- 培養20h後 44h後 無 25 27 有 25 63 培養開始時の培地には一定量の酸素がとけていること、ならびに、この細菌の酸素呼吸による酸素消費速度は、 酸素が培地に溶け込む速度よりかなり速いことに留意して以下の問に答えよ。 (a)硝酸イオンのない培地では、培養20時間目から44時間目までの間に細菌はほとんど増殖しなかった。その理由を述べよ。 (b)硝酸イオンのある培地では、細菌は、培養20時間目と44時間目において酸素呼吸と硝酸呼吸のどちらを行っていたのか?根拠とともに述べよ。」 ↓ ↓ ↓ しばし考える ↓ ↓ 解答 「問1 窒素固定 問2(a)培養開始時に含まれていた酸素は20時間目には消費され、酸素呼吸はできない。また硝酸イオンもなくて硝酸呼吸もできないため44時間目にいたるまでほとんど増加できない。 (b)培養20時間目は硝酸イオンの有無に関係なく菌体重量が同じため酸素呼吸を行っている。44時間目では硝酸イオンを含む培地でのみ大量増殖しているため、硝酸呼吸が行われた。」 ●脱窒菌にとっての脱窒素の意味 脱窒菌自身はなぜ「NO3-→N2」をさせるのでしょうか。 設問にあったように好気呼吸に必要なO2をNO3-からはぎとるわけです。これを「硝酸呼吸」といいます。 環境中に02があればそれを直接利用したほうが楽なので普通の好気呼吸をし、O2がなければ、NO3-から02をはぎとって使うわけです。その廃棄物がN2というわけです。 |