生物と化学双方で出題されうるグルタチオンを2回とりあげる。 設問(2003年千葉大・化学) タンパク質に比べて少数のαアミノ酸からなるペプチドには、ホルモンや抗生物質などのように生理活性を有するものがある。 たとえば鎖状のトリペプチドであるグルタチオンは動植物に広く存在し、生体内の解毒や酸化防止に重要な働きを演じている。 グルタチオンは以下に示した7種類のαアミノ酸のうち、いずれかで構成されている。ただし( )内は、αアミノ酸の側鎖を示す。 グリシン(H) アラニン(CH3) セリン(CH2OH) フェニルアラニン(CH2C6H5) システイン(CH2SH) グルタミン酸(CH2CH2COOH) リシン(CH2CH2CH2CH2NH2) グルタチオンを構成するαアミノ酸を決定するため、以下の操作を行った。 操作1 グルタチオンを酸で完全に加水分解したところ、3種類のαアミノ酸が生成した。 これら3種類のαアミノ酸の等電点は、それぞれ 5,97、 5,07、 3,22、 であった。 またこのうち一つのαアミノ酸は不斉炭素原子をもたなかった。 操作2 グルタチオンを弱い酸で部分的に加水分解したところ、2種類のジペプチドAとBが生成した。 AとBに濃い水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、酢酸鉛(2)水溶液を加えると、いずれも黒色沈殿が生じた。 問1 操作1より、グルタチオンに含まれるαアミノ酸のうち2種類を特定することができる。2種類のαアミノ酸の名称と理由を記せ。 問2 操作2で生じた黒色沈殿の化学式を書きなさい。 問3 操作2より、グルタチオンには、操作1で明らかになった2種類のαアミノ酸以外にどのαアミノ酸が含まれていることがわかるか。 問4、その後の実験により、グルタチオンでは側鎖Rに含まれる官能基がペプチド結合(アミド結合)に 関与していることが明らかになった。 グルタチオンの予測される構造式を書きなさい。 ↓ ↓ (考える) ↓ ↓ ↓ 答 問1 グリシン(不斉炭素がないので) グルタミン酸(等電点が低い(酸性側にある)酸性アミノ酸はグルタミン酸のみなので) 問2 PbS(含硫アミノ酸「システイン・メチオニン」と側鎖の硫黄と反応) 問3 システイン 問4 下図が答 操作2で両断片ともに硫黄反応を起こしているので中央のアミノ酸がシステインとわかる。 「側鎖がペプチド結合に関与」と書いてあるが側鎖にペプチド結合に関与が可能なアミノ酸はグルタミン酸(COOHあり)、 リシン(NH2あり)などであるが、前の記述からグルタミン酸とわかる。 したがって 「グルタミン酸ー側鎖のCOOHで結合ーシステインーグリシン」とわかる。 ●通常のトリペプチドは朝のジぺプチドと同様、上図のように側鎖がそれぞれ中心炭素から派生し、ペプチド結合には関与しない。 しかし、例外もある。 通常の中心の炭素原子(図で青字で表記) に結合するNH2とCOOHどうしがペプチド結合するでなく、 側鎖のNH2やCOOHがペプチド結合に関与するという特殊だが有名な例が「グルタチオン」なので要注意。 厳密にはこれは還元型グルタチオン(GSH)。その意味は明日に。 |