今回も設問なしで説明のみとします。 HIVなどretrovirusの宿主細胞(host cell、HIVの場合はCD4を持つhelper T-cell)への感染・増殖機構を詳しく説明すると次の通りとなる。 1.HIVが膜表面の糖タンパク質で、細胞表面のvirus receptor(CD4)に結合する 2、細胞内に侵入する 3、逆転写酵素(reverse transcriptase)により(RNA-DNA二本鎖→RNaseによるRNA 鎖分解→)DNA二本鎖形成 4、インテグラーゼ(integlase)により核内にプロウイルス(provirus)として侵入 5、RNAに転写される。一部はRNAを作ることが目的だが、一部はmRNAとして働く。 6、mRNAが翻訳されウイルスのタンパク質ができるが、それは複数のタンパク質が一つながりで作られる。 7、 その一つながりのタンパク質をproteaseで切断し,種々の目的タンパク質ができる。 8、 ウイルス粒子が組み立てられる。 9、 出芽し、宿主細胞から脱出増殖する。 この各段階にアプローチして阻止しようとするのが抗ウイルス療法である。 とくに重要な段階として 1、で細胞に結合できないように侵入前のvirusに対する中和抗体や、reseptorとの結合阻害 2、を阻止する(アマンタジン) 3、の逆転写酵素阻害剤のAZTなど 4、のRNA合成をそのRNAに相補的なRNA(antisense RNA)を導入し、阻止しようという方向も模索されている。 7を阻止するprotease inhibiter(プロテアーゼ阻害剤)、インジナビルなどである。 9、脱出阻止 が模索されているが、現時点で一番実用的なのは3と7である。ただ実際は多数の薬を同時に服用する「カクテル療法」 (多剤併用抗HIV療法 highly active anti-retroviral treatment)で、感染者は健康をコントロールし保持している。 ●HIV感染helper T-cellを認識するCTL(細胞障害性Tリンパ球、いわゆるキラーT細胞、cytotoxic T lymphocyte)は出現するが・・・ 感染後、血中のHIV量は減少することはあるがなくならない。減少する理由は免疫機能によるHIV感染細胞の除去である。 HIVに感染されたhelper T-cellは、そのHIVの持つタンパク質の一部を細胞表面に示す。「私(細胞)はHIVに感染されました」 と印を出す。それをCTLが認識し、感染細胞ごと破壊されるからである。 しかし、HIV―RNAは変異をするためタンパク質も変異し、「私(細胞)はHIVに感染されました」と印を出しにくくなり、 CTLによる除去を免れる。したがってなかなかvirusが完全に除去されることはない。 ●long-time surviverとウイルスレセプター変異 まだカクテル療法が確立されていない時代に、 HIVに感染し治療を受けないにも関わらず生き延びた人をlong-time surviver(長期生存者)といいます。 その後、その方々の遺伝子を調べたところ、細胞表面のCD4に変異があることがわかり、 HIVが結合しにくい(上の説明で1が進まない)ために、HIVがヘルパーT細胞に潜りにくいことがわかってきました。 その変異はヨーロッパ中止の黒死病(ペスト)流行の時の生存者の一部に起きたことがわかり、 ある細菌感染に対する生存者が選抜された遺伝子変異が、700年後の別のウイルスへの感染のしやすさにつながってくるという不思議な現象がわかってきました。 なお、宿主細胞の細胞膜でウイルスが最初に結合する構造を「ウイルスレセプター」と表現し、 普段は、「ウイルス感染受け入れ」以外の別の生理的働きをしています。ウイルスはそれをうまく利用するのです。 でも「ウイルスレセプター」という言葉は、私たちの細胞が常にウイルスを受け入れる可能性があるということをよく示していますね。 |