●設問(03京都府立医大/後期/総合問題/部分) (画像なし) クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(CreutzfeldtJakob Disease)は100万人に1人の割合で大多数が孤発性に生じるまれな疾患である。 CJDは1920年代初頭、ドイツの神経病理学者CreutzfeldtとJakobによって神経病理学的に特徴のある致死的疾患群の一つとして記述された。 わが国を含め、世界各国の古典的CDJ有病率はほぼ同一で、発症年齢の平均は62歳であり、女性が男性よりやや多い。 古典的CJDは精神症状と高次機能障害(記憶力低下、計算力低下、失見当識、幻覚など)で初発する。 ところが、1990年代に英国で20代の若年に好発する新変異型CJDが出現した。 英国政府は1996年、疫学的な研究をもとに「牛海綿状脳症(BSE)(Bovine Spongiform Encephalopathy) いわゆる狂牛病の病原体が牛からヒトに感染した可能性がある」と発表し、世界的なパニックに火がついた。 現在、その病原体は(2)「プリオン」と呼ばれ、従来より知られている細菌やウイルスとは異なり、本体は蛋白である。 プリオン蛋白の遺伝子は宿主の染色体DNAに存在し、病原体のプリオン蛋白は宿主蛋白に由来していることも判明した。 正常プリオン蛋白は神経細胞表面へ発現され再び細胞内へ取り込まれる間に何らかの生理的機能を発揮していると考えられている。 この経路のどこかで正常プリオン蛋白が(3)プロテアーゼ抵抗性の異常プリオン蛋白へ質的に変化すると脳内に蓄積することになる。 その結果、神経細胞が障害され、次々と変性壊死脱落し、プリオン病を発病する。 プリオン病の診断には病原体の検出がもっとも確実な方法である。 病原体の分離には剖検材料(脳組織、扁桃、脾、髄膜)から異常プリオンの同定を免疫組織化学法またはウエスタンブロット法を用いて行なう。 また、遺伝子診断法としてもPCR法が用いられるが、遺伝子の解析は血液等から抽出した遺伝子DNAをもとに、プリオン遺伝子の塩基配列を決定する。 検査材料としてホルマリン固定後のギ酸不活性化パラフィン包埋組織については危険性がなく室温における輸送が可能である。 また、3%硫酸ドデシルナトリウム(SDS)中で5分間以上煮沸した検査材料には感染性はないので通常の検査材料と同様に保存が可能である。 汚染された器具等の不活化は極めて困難であるが、焼却あるいは5%次亜塩素酸ナトリウム中に2時間以上室温で浸すか、高圧蒸気滅菌(132℃、1時間)を行なう。(日本医師会資料を引用、改変) (注) 免疫組織化学法:組織切片上で特定の蛋白を特異抗体を用いて検出する方法 ウエスタンブロット法:特定の蛋白を電気泳動により分離後、特異抗体を用いて検出する方法 PCR法:特定の遺伝子を増幅して検出する方法 問1 BSEの最初の報告は1985年であり、それ以前にはBSEは存在しなかったと思われる。牛にBSEを発症される原因となった事項を20字以内で説明しなさい。 問2 ヒトへ感染する可能性が高い牛の組織(臓器)を2つ答えなさい。 問3 牛からヒトへの感染以外に、CJDがある医療行為によりヒトからヒトへ感染した例を20字以内で説明しなさい。 問4(2)を参考にウイルスとプリオンの違いを40字以内で説明しなさい。 問5(3)プロテアーゼの意味を10字以内で書きなさい。 ↓ ↓ ↓ (しばし考える) ↓ ↓ 解答 「問1 プリオン病(スクレイピー)にかかった羊の肉骨粉の摂取 問2 脳・脊髄 問3 CJD感染のヒト硬膜移植による薬害ヤコブ 問4 ウイルスは核酸・タンパク質(・脂質)などから構成されるが、プリオンはタンパク質のみである。 問5 タンパク質分解酵素 ●解説1(凝集性の高いタンパク質) 感染型プリオンはタンパク質の一種であるが、一般のタンパク質と異なり、熱にも強く、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)でも分解されない。 感染型プリオンは凝集性が高いので神経細胞に沈着し壊死させる。アルツハイマー病の原因のアミロイドも凝集性の高いタンパク質であり、 疾病の原因にはこのような凝集性の高いタンパク質が多い。 疎水部分がお互い集まって凝集していく場合が多い。 ●種の壁を越えた感染 哺乳類相互のプリオン病には相互感染しないものもある。ヒトは羊のスクレイピーを食しても感染しない。「羊→ヒト」のプリオンの構造が異なりすぎて隣接しても変化しない。 しかし 「羊スクレイピー→牛BSE→ヒト新型ヤコブ病」では 「羊→牛」「牛→ヒト」のプリオンの構造が比較的近いのでドミノ倒し的に感染していった。 |