今日は設問でなく説明です。「ハンチントン舞踏病」「脆弱X症候群」という有名な疾患の原因で、高校生物の遺伝子知識の範囲内で応用編で出題可能な内容です。 1、「マイクロサテライト」はコピー数を増殖する場合がある ヒトゲノムの半数弱は繰り返し配列で、霊長類以前の過去にコピーされ増殖してきた歴史がありましたが、 現在は増殖停止しています。ただ、同じ1〜4塩基の繰り返す配列である「マイクロサテライト」部分では、 増殖しない人も多いのですが、場合によっては世代ごとに繰り返し回数が増えていく増殖が行われる場合があります。 これも塩基配列の突然変異です。間違えて一杯コピーしまうわけです。 2、静的突然変異(static mutation)か動的突然変異(dynamic mutation)か 高校生物で学ぶ塩基配列突然変異は、欠失・付加・置換です。 その結果アミノ酸配列が変更される頻度自身が少ないですね。 また起きた場合、生存に明らかに不利ならば定着できず淘汰されますが、 有利あるいは中立の場合、その家系ではアミノ酸の変化が定着し、その子孫に受け継がれます。 同じ場所がまた変異することは少なく、 その家系内では子・孫・ひ孫…としばらくはその塩基が維持されるので、「静的突然変異」と言われます。 (起こった後はしばらく静的にしている突然変異) ところが、親→子→(孫→ひ孫)と世代ごとに 変異がおき続ける変異がありそれを「動的突然変異」と呼びます。 その典型例が、「マイクロサテライト」の繰り返し数の増加です。 3、トリプレットリピート病とは? 特に3塩基を繰り返し単位(トリプレットリピートという) 部分の増加は「トリプレットリピート病」と総称される様々な 疾患を引き起こします。 どこの部分が増加するかで、2種に分類できます。 ・エクソン部分内のトリプレット増殖(CAGリピート) 例 ハンチントン舞踏病、脊髄小脳うたみん変性症、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA) 不思議なことにいずれの疾患もグルタミンを指定する 「CAG」リピートの増加です。 翻訳されるタンパク質内にポリグルタミン部分が異常に長くなり、 それがタンパク質の立体構造を変え、正常機能を失わせることが疾患の原因で、「ポリグルタミン病」という別名もあります。 ・非翻訳部分、イントロン部分内のトリプレット増殖 5´非翻訳領域部分 脆弱X症候群 イントロン部分 フリードライヒ失調症 3´非翻訳領域部分 筋緊張性ジストロフィー エクソン部分のタンパク質のアミノ酸が異常に長くなれば立体構造が異常になるというわかりやすいですね。 しかしなぜ、タンパク質にもならない部分のトリプレットリピートの増加が異常を引き起こすのでしょうか? 知的障害の原因としてダウン症についで多い脆弱X症候群は 5´非翻訳領域のトリプレット(CGG)のリピート増加です。 「CG」配列は 時に遺伝子の読み込みを停止させるDNAメチル化が起こりやすい塩基配列です。 したがって、DNAメチル化が過度に起こることにより、その遺伝子部分の転写頻度を異常に低くさせ、 必要なタンパク質量が作られあいことが原因と考えられています。たぶん他の 「イントロン」「3´非翻訳領域内」のトリプレットリピート病も転写量の異常が原因と考えられます。 (エクソンで指定されるタンパク質自体は一切変化してませんが、 その転写量の減少が原因なのです。 「アミノ酸変異はないが転写量異常が形質変異を起こす」という事実は実も重要な認識となっていますので、気をつけてください。) 4、なぜ世代ごとに増加する「動的突然変異」なのか? なぜトリプレットリピートなど、マイクロサテライトは増加するのでしょうか? その前に、すべての家系で増加しているわけではないことを断っておきます。 健康人の場合は、親と同じコピー数を維持し、その数が何世代経てもずっと維持される場合が多いのです。 問題は一度長くなり始めた家系においては世代ごとに長くなりやすいという事実です。すると世代ごとに発症が早期化・重症化する傾向があり「表現促進現象」といいます。 そのしくみは徳島大学医学部のグループが次のような推測をして研究をしていますが未解明です。 「トリプレットリピートの近傍に存在する特異的な配列と それを認識する細胞因子との相互作用の結果誘導される染色体(クロマチン の構造変化が、 DNA複製時のDNAポリメラーゼの滑りやすさを促進し、その結果、特定の遺伝子内のトリプレットリピートの伸長を促す」 |