[病原体、ウイルス] 病原体の立場に立ってみれば、病原体も生物なので、自分と同じ種をたくさん残すという生物の大原則を遂行しようとする。 そのための環境がたまたま人の体の中ということになったのだ。 したがって人に感染して病気を起こし、 生命を奪うことが目的ではないのだろう。死んでしまっては共倒れで、元も子もなくなってしまう。 だから、ほんとうはあまり激しい症状を出さず、共生をして増殖するのが一番いいのだろう。 ところが、力余ってというか、人の方の抵抗力が落ちていると重篤な症状となってしまう。 たとえばコレラは、食物や水によって体内に入ったコレラ菌が、酸性の強い胃を死なずにすり抜けて小腸に居座り、 コレラトキシンを分泌するために、脱水症状を起こし、手遅れになると死に至る感染症である。 コッホがコレラ菌を発見したのは19世紀末であるが、今でも時々流行することがある。 小腸は消化したものを吸収する場所だが、いろいろなイオンの出入りもコントロールしている。 特にナトリウムイオンと塩素イオンの排出が重要である。塩素イオンは、小腸上皮細胞の細胞膜にある。 (1)塩素イオンポンプを使って細胞内から小腸の管腔側へ汲み出されている。 このポンプは、サイクリックAMPという細胞内の情報伝達分子のはたらきによって動かされている。 コレラトキシンはタンパク質で、分泌されるとその一部が小腸上皮細胞の内部に取り込まれ、 細胞膜に埋め込まれたGタンパク質というタンパク質を修飾して、サイクリックAMPをずっと作り続けるようにしてしまう。 その結果、塩素イオンを汲み出すポンプが停止しなくなり、塩素イオンがどんどん外側に出るために、それに引っ張られて水が小腸の管腔側にどんどん出て、激しい下痢をひき起こすのだという。 サイクリックAMPというのは習っていなかったので調べてみた。この分子は(2)「アデニル酸シクラーゼ」という酵素のはたらきによって ATPからつくられる分子で、細胞内に情報を伝達する分子の一つだと書かれていた。 細胞内に情報を伝達する分子はホルモンだが、ホルモンのなかには細胞内へ入れないものがあり、 その場合は細胞の表面にはたらいて細胞内に情報伝達分子を作り出し、ホルモンのはたらきを実現する。 たとえば、(3)「アドレナリン」は肝臓に作用して、肝臓に蓄えられているグリコーゲンを グルコース(ブドウ糖)に分解するはたらきがあるが、アドレナリンは細胞内にサイクリックAMPをつくるようにはたらき、 サイクリックAMPが(4)「グリコーゲンからグルコースへ分解する酵素」を活性化する。 その結果、アドレナリンが作用すると、グルコースが解糖系に供給されるようになるのだ。 ウイルスを調べてみると、ウイルス本体は核酸(DNAかRNA)とタンパク質の外被(キャプシド)からできていて、 これ以外にはタンパク質の合成に必要な細胞小器官などをまったくもっていない。 つまり、ウイルスはもともと単独では増殖することができないのである。 細胞に入り込んで、その細胞のタンパク合成装置や核酸合成装置をちょっと借りて、というか横取りして、自分のコピーを作り、それで増殖して細胞から飛び出るのである。 したがってウイルスに感染された細胞の機能は低下、もしくは停止してしまう。 このために感染した細胞が機能不全におちいり、症状が出るのである。ウイルスのなかには、キャプシドの外側にエンベロープと呼ばれる模様構造物をもっている場合もある。 エンベロープは、タンパク質、脂肪、炭水化物などからできている。 ウイルスはどんな細胞にでも侵入するのではなく、 決まった細胞に侵入する。そのためにウイルスの種類によって異なる細胞の機能が停止し、異なる症状が現れるのである。 たとえばエイズウイルスはTリンパ球に侵入して、免疫系のはたらきのなかで重要な鍵を握っているこの細胞の機能を停止させてしまう。 そのために、免疫力が低下し、各種の日和(ひより)見(み)感染がおこる。 問1、(1)濃度勾配に逆らってエネルギーを使って物質を移動させるはたらきを何というか書け。 問2 (2)(4)これらの酵素は 特定の分子にはたらく。酵素タンパク質のこの性質を何というか.。 問3(3)アドレナリンを分泌する内分泌器官の名前は? ↓ ↓ (しばし考える) ↓ ↓ 解答 「問1能動輸送 問2 基質特異性 問3 副腎髄質」 解説 「コレラトキシン→細胞内シグナル伝達過剰促進→小腸の塩化物イオンポンプ停止せず→Cl-過剰排出→下痢」という流れは知っておこう。 |