問(09防衛医大/前半/設問順変更) 動物の消化管には100種類以上の常在細菌がすんでいる。 生まれたとき(a)「無菌状態」の消化管には、すぐに細菌がすみつく。 常在細菌が構成する生態系は動物の種類や 消化管の部位で異なるのはもちろん、同一個体でも年齢、 病気、感染、抗生物質投与や食べ物など様々な要因により変動する。 ヒトの母乳に多く含まれる二種類の ( ア )は小腸壁から分泌される消化酵素の働きで( イ )になる。成人になって牛乳や乳製品を あまり食べなくなると酵素の分泌能が低下する。 このとき乳や乳製品を食べ過ぎると多量の( ア )が未消化のまま大腸まで行く。浸透圧により( ア )が大腸壁から水分を吸い取るので便は柔らかくなる。 ( ア )は常在する乳酸菌により( ウ )になる。成人の(b)「便を構成する固形物」の三分の一は常在細菌とその死骸で、 これは食物の残渣よりも多い。 草食性動物のウサギは大腸の始まりの部分にある(c)「盲腸」が大きくて長い。 消化されずに盲腸に来た食物繊維は常在細菌が分解して盲腸便を作る。盲腸便は普通便とは混ざることなく別に排泄されて、ウサギはこれを食べて栄養源にしている。 問1.(ア)に適する語句を1つ選べ。 (あ)ガラクトース (い)スクロース (う)マルトース (え)ラクトース (お)グリコーゲン 問2.(イ)に適する語句を1つ選べ。 (か)ガラクトース (き)果糖 (く)グルコース (け)ガラクトースとグルコース (こ)果糖とグルコース 問3.(ウ)に適する語句を1つ選べ。 (さ)乳酸 (し)インドール (す)スカトール (せ)硫化水素 (そ)メタンガス 問4.(a)「無菌状態」の場合に発育や成長はどうなるかをマウスで調べたところ、 「マウスの胎児を無菌的に子宮から取り出し完全無菌の状態で無菌餌を与えて育てた無菌マウスは、 腸内に常在細菌が認められなかった。このマウスは成獣となり繁殖もできた。」という結果が得られた。 しかし、この無菌マウスは一般環境に移されると容易に死んだ。なぜか、その理由を述べよ。(20字以内) 問5 (b)「便を構成する固形物」で細菌や食物残渣の他に便に多く含まれる成分がある。その由来は何か。(15字以内) 問6.(c)「盲腸」の端にヒトは痕跡器官の虫垂を持つ。虫垂以外でヒトの持つ痕跡器官を1つ答えよ。 ↓ ↓ ↓ (しばし考える) ↓ ↓ ↓ 「解答 問1.(え) 問2.(け) 問3.(さ) 問4.外界の様々な細菌に対する抗体がない。 問5.消化管内壁の細胞 問6.尾骨・耳殻筋・副乳・瞬膜」 ●解説 問2 二糖類をまとめると マルトース(麦芽糖) =グルコース+グルコース スクロース(ショ糖) =グルコース+フルクトース ラクトース(乳糖) =グルコース+ガラクトース 問6 痕跡器官は祖先生物が持っていた器官が退化しながらも痕跡的に残っているもの。 ・耳殻筋は耳を動かす筋肉で時々よく動かす人がいますね。 ・副乳は乳房の他にも腹の側面に小型の 乳腺が発達する現象でまれにあります。 ・瞬膜は目を保護する膜で目の内側の付け根(眼やにがよく付く場所)に「白く」残っている部分です。鳥や魚では今でも発達しています。 ●腸内細菌 古生代、顎(あご)がなく、砂の中の有機物をろ過して食べていた(ろ過食)「無がく類」から、 あごを持つ現在の魚類の祖先「有がく類」が分岐し、食物を噛み砕いてだべるようになった。 大量に噛み砕かれた食物は体にとっても異物であったため、有がく類は腸で免疫系を発達させるとともに、 腸内細菌を共生させるようになった。 腸内細菌は様々な菌種が共存し、独自のバランスの中で全体的に、 体外から侵入してきた病原微生物の成長を阻害したりしている。また、腸の吸収にとっては競争相手となるとともに、 同時に腸が吸収しやすいまでの食物の分解を促している。 ヒトの腸内細菌では若いと乳酸菌群が多く、加齢とともにウエルシュ菌が増える。腸内細菌のバランスをできるだけ 若い状態に保つようによーグルトを食べたり、腸内の乳酸菌群の成長を促す食べ物を食べることを「プロバイオティクス」と呼び、栄養学の観点で注目されている。 なおヨーグルトの中にいた生きた乳酸菌がそのままヒトの腸内ですべて生き続けるわけではない。多くは特に胃液や その後の小腸内の環境の中で死ぬ。しかし、その菌体から放出される成分は、ヒトの腸にもともと存在する乳酸菌群などの 生育を助けるのである。 「ヨーグルトの生菌=ヒトの腸内細菌としてそのまま定着」ではないことに注意。 |