●山口大2007 A. 5−ブロモ−2´−デオキシウリジン(BrdU)は、DNAの構成要素であるチミン(T)と類似の物質である。 動物にBrdUを投与すると、 ア「幹細胞」 のように体内で分裂をおこなっている細胞は、チミン(T)の代わりにBrdUを使って イ「DNAの合成」をおこなう。 細胞内のBrdUを検出するためには、BrdUを認識する抗体に色素を結合させたものをもちいる。 この「抗体+色素」は、DNA中のBrdUに結合するので、BrdUを取り込んだ細胞を色で検出することができる。 一度形成されたBrdUとこの「抗体+色素」は、実験中に分解することはなく、退色することもない。 また、細胞でみられる色の濃さは、取り込まれたBrdUの量に比例する。 山口君は、小腸の上皮細胞について、次の実験をおこなった。 ただし、BrdUは動物に無害であるとする。 (実験)ある実験動物4個体に対して、少量(一定量)のBrdUを短時間投与し、 それぞれ6時間後、3日後、5日後、7日後に小腸を取り出して、 BrdUをDNAに取り込んだ細胞の観察をおこなった。 (結果1)6時間後の小腸では、「腸腺の底」付近にのみ、BrdUを取り込んだ上皮細胞が観察された。 (結果2)3日後の小腸では、「腸腺の底」から柔毛の一部の上皮細胞まで、BrdUの存在が認められた。これらの細胞群は連続して並んでいた。 (結果3)5日後の小腸では、腸腺および柔毛のほとんどすべての上皮細胞に、BrdUの存在が認められた。色素の濃さは6時間後の小腸と比べて濃くなっていた。 (結果4) 7日後の小腸では、BrdUを取り込んだ細胞が観察されなくなった。 問1.ア「分裂」以外の細胞が持つ機能について、5字以内で答えよ。 問2.イ「DNA合成」が起こる時期について、適切なものをすべて選び、(a)〜(i)の記号で答えよ。 (a) 前期 (b) 中期 (c) 後期 (d) 終期 (e) 間期 (f) G1期 (g) S期 (h) G2期 (i) M期 問3.結果4の理由を、以下の5つの語句をすべて使って、100字以内で説明せよ。 (核内のBrdU、上皮細胞、幹細胞、検出可能な最小の量、小腸) 問4.上の実験の(結果1)〜(結果4)をふまえて、小腸上皮細胞の維持および再生のしくみについて、150字以内で説明せよ。 ↓ ↓ ↓ ↓ (しばし考える) ↓ ↓ 問1 細胞の分化 問2 eg 問3 小腸の腸腺の底には幹細胞があり、この細胞から上皮細胞が分化する。 投与されて取り込まれた核内のBrdUは細胞死に伴い分解されて次第に減少し、検出可能な最少の量を下回ると観察されなくなる。 問4 小腸上皮細胞は、小腸の腸腺の底にある幹細胞から分化する。 幹細胞は継続的に分裂し、 生じた細胞は腸腺の底から上方に押し出され、分裂後3日ほどで柔毛の一部に達し、 5日後には柔毛のほとんどを覆うようになる。 7日後には生じた細胞はすべて役割を終えて死滅し、分解される。幹細胞は維持され再生は継続する。 解説 体の臓器・組織の一部にある「幹細胞」がその臓器・組織を維持しています。 このような「幹細胞」をES細胞(embryonic stem cell、胚性幹細胞)と区別して「体性幹細胞」といいます。 「体性幹細胞」は2分裂した1つを幹細胞として未分化に近い形で保持しながら、 もう1つが分裂・分化していく流れとなります。 小腸上皮細胞では幹細胞が根元(腸腺の底)に存在し続け、分化していく細胞はしだいに先端に出てくるのが特徴です。 わずか7日で回転が進んでいくため、毒物や病原菌の影響を速やかに糞便と一緒に除去できます。 分裂が継続しているため、がん細胞の分裂を阻害しょうとする抗がん剤も効きやすく、抗がん剤の副作用の1つが下痢になりやすいわけです。 ●パイエル板・クリプトパッチ 小腸上皮細胞には柔突起と柔突起の間に平らな丘のようになっているリンパ組織(リンパ球が集中) しているパイエル板、また柔突起の根元 の奥に「クリプトパッチ」というリンパ組織が存在し、病原菌の侵入を防ぐ腸管免疫系として働いています。 |